【創作】モンブラン

妹:ちょっといい?

姉:お!お義母さんとの初対面はどうだった?

妹:それなんだけど、モンブランを買ってきた

姉:いいじゃん!ケーキ買ってくれていて、ウェルカムじゃん!

妹:よく考えて、このクソ暑い真夏にモンブランだよ

姉:うーん、考えすぎじゃない?みんなでモンブラン食べたんでしょ?

妹:ううん、私だけ

姉:え?旦那とお義母さんは?

妹:ちょ、旦那って(笑)ま、いっか。彼はコーヒーゼリーで、お義母さんはオレンジババロア

姉:あー、そういうかんじかぁ。そのラインナップでモンブランは確かに違和感だわ

妹:だよね!?しかも私、事前に柑橘系が好きだって彼経由で伝えてたの!

姉:なるほどね。事前に伝えていた柑橘系であるババロアをお義母さんが食べた、と。これは世間一般的に言うところの“イビリ”ですね

妹:そう…思う?

姉:そうでしょう

妹:そうだよねぇ、そうなんだけど、お義母さんと話してるうちにだんだん分からなくなってきちゃって。そこを客観的意見を交えて姉とジャッジしたいの

姉:ジャッジって何を?

妹:イビリか天然か

姉:それジャッジしたところで何か変わるの?

妹:変わる!心構えが違う!もう結婚するし、しかも彼の実家近くに住むわけだから、なるべく平穏に過ごしたいの。もしイビリ系義母だとしたら、予防線張ったり対策を練ったりしておきたいの。逆にただの天然ならそういうものと受け止めて、適度な距離でお付き合いしたいの。気持ちの落としどころを見つけたいのよ。最初から不信感満載じゃ幸先思いやられるじゃん

姉:なるほどね。つか、お義父さんはどうした?

妹:今回は正式な挨拶じゃなくて、お義母さんたっての希望で先に会っておきたかったんだって

姉:先に値踏みしておきたい的な?うし!じゃあ、最初から整理しようか。まず旦那はちゃんと柑橘系が好きだってお義母さんに伝えたのかな?

妹:うん、ケーキ振り分けた時「お母さんがババロア食べるの?彼女ちゃん柑橘系が好きだって言ったよね?」って

姉:それでお義母さんの反応は?

妹:「あらやだ、そうだったわね。私ったら。ババロアがあまりにも美味しそうだったからすっかり忘れちゃった。やだもう」って言って、交換しようとしたけど、そんなこと言われたら交換できなくない?

姉:そうね。お義母さんはババロア確定で買ってきたんだもんね

妹:そう、だから断ったよね。そうしたら彼がコーヒーゼリーモンブランを交換しようとしてくれて、モンブランコーヒーゼリーだったらコーヒーゼリーの方がいいかなと思ったらお義母さんが「え、あなたコーヒーゼリー好きでしょ?」って言ってきて、そんなこと言われたらまじで交換できなくない?それでコーヒーゼリーへのルートも遮断されたよね

姉:ねえそれ完全にイビリだよ。全力で阻止しにきてんじゃん。そもそも初めて会う息子の結婚相手の好みを「ババロアが美味しそう」って理由で忘れるかね。設定に無理がある。力技すぎてイビリ系義母なら結構手強そう

妹:だよねー

姉:でも、今後を穏便に過ごそうとするならコーヒーゼリーと交換しなくてよかったんじゃない?

妹:どういう意味?

姉:今の時点でイビリ系か天然系かまだ分からないけど、イビリ系義母だとしたら、イビってんだから交換したら面白くないだろうし、天然系義母だとしても、モンブランは嫌だったんだなって、お義母さんの顔を潰すことになったからさ。角が立つのを回避したってこと

妹:なるほど

姉:続いて、お義母さんのモンブランチョイスについてよ。お義母さんと旦那は涼しい系のケーキなのに妹だけもったり系のケーキ。もうこの時点で私はイビリ確定だと思うよ

妹:うーん

姉:それにさ、モンブランって結構好き嫌い分かれるケーキじゃない?好みを忘れたならせめて無難にショートケーキでしょ

妹:うーん

姉:だいたいさ、フツー客から選ばせるでしょ。そうしない時点でイビリだよ。どう?納得してない顔だね

妹:姉の言う通り整理されるとイビリの線が濃厚なんだけど、会話を思い返すとまだしっくりこないところがあるんだよね

姉:オッケー、じゃあ、どんな話をしたの?

妹:家族構成の話をした。私に姉と弟がいると知ったら「安心した」って言ってた

姉:何が安心?

妹:なんか「お姉さんと長男の弟さんがいるなら安心ね」って

姉:それって中間子である妹を取っても問題ないよねって意味じゃん。なに、こき使おうとしてる?怖い

妹:私もそういう意味だと思ったんだけど、お義母さんの家も同じ家族構成みたいで「何かあったら姉を頼って、弟も年下だけど、長男の自覚があって頼り甲斐がって、中間子だけど、末っ子みたいに甘えて育った」って言ってた

姉:自分と同じ境遇だから安心ってこと?よく分からんな~。あとはどんな話したの?

妹:仕事の話。私が非正規で働いてるって言ったら喜んでた

姉:なんで?

妹:お義母さん家の老犬の世話を頼めるって

姉:なんで妹が他人ん家の犬の世話するの?!

妹:お義母さんまだ現役フルタイムで働いてるから、早く帰れる人に診てもらいたかったんだって。老犬の具合が最近悪くて心配だから

姉:なにか時短勤務のパートと勘違いしてない?非正規でもフルタイムで働いているよね

妹:そう。それは彼が訂正してくれた

姉:向こうの反応は?

妹:「よく分かってなくてごめんなさい」って言ってた。あと「犬の具合が悪いのは夏バテだよ」とも彼が言ってた

姉:昨今の夏に対する意識が低いのか?だからケーキもモンブランを買ってきたのか?やっぱり天然か?

妹:あと彼の幼少期の話をした。「女の子みたいにかわいくて、女の子の恰好をさせてた」って

姉:たまにそういう人いるよね

妹:うん。で、「結婚しちゃうからもう女の子の恰好してもらえない」って残念がってた

姉:ちょっと待って!!幼少期オンリーじゃなくて!?現在進行形で女の子の恰好をさせてたん!??つか、旦那はしてたん!!??

妹:それも彼が訂正してたよ。もともと中性的な顔立ちで、高校と大学で女装してステージに上げられることがあったんだって。お義母さんはそのことを言ってたみた

姉:あ~、学祭のノリね。てか、お義母さんの言い方、誤解を招くな~。イビリとか関係なく、いろいろ心配。ここまでの話をきくとケーキの件が霞んでくるな~。妹の言う通りイビリ系か天然系か分からないね。むしろ私の中では若干天然系に意見が傾きつつある

妹:そうなの、ケーキ以外はイビられてる感じがしなかったの

姉:うーん、あとは何か話した?

妹:お義母さんの会社の話。これが一番よく分かんないよ。お義母さんが「会社で面白いことがあって」って話し出したのね。

休憩中に後輩ちゃんが泣いていたから理由を聞いたら、飼ってた犬が突然死したんだって。それで慰めようと思って、「失った犬の悲しみは新しい犬でしか埋められないよ」って、新しい犬を飼うことをすすめたらしい。そしたら後輩ちゃんはもっと泣いちゃって。そこでちょうど休憩時間が終わったから仕事に戻ったらしい。でも後輩ちゃんが心配だから、その後も事あるごとに「新しい犬を飼った?」って聞きまくったら、スマホの画面を見せられて、そこに犬のぬいぐるみが写っていて『この子を飼うことにしたのでもう大丈夫です!』って一方的に言われたんだって。それで「いや、ぬいぐるみかーい(笑)ってなった」って言ってた

姉:それの何が面白い話…?それって後輩ちゃん、つきまといで病んでぬいぐるみをペットにしたか、つきまといを辞めさせる手段でぬいぐるみを見せたかのどっちかだよね。ペット、いや、急に家族を亡くして悲しんでる人に新しい犬をすすめる神経…。つか、お義母さんも犬飼ってるよね?そういう気持ち分からないのかな?天然通り越してサイコパスに感じる

妹:私も怖いと思った。こんなかんじで初対面は終わった。ねえ、どう思う?

姉:え!以上?いや、正直最後の話に全部持ってかれるな~。最初のモンブランを買ってきたなんて些細なことに感じてしまう。でも、まぁ、今までの話を聞く限りだと、サイコ寄りの天然…かな?全体的に行動も会話も意味不明だけど悪意はなさそうって印象。気持ちの落としどころはどう?

妹:とりあえず、キャラは強烈だけど、悪意がないなら適度な距離を保ちながら節度ある付き合い方をしていこうと思う!

姉:そうか!頑張れ!

 

 

―――1年後

姉:おー、おかえりー

妹:出戻って参りました(笑)

姉:詳しくは聞かんが、お義母さんか?

妹:うん♪悪意がないとかそういう次元の話じゃない。人が嫌がることが分からない時点で無理なのよ\(^o^)/オワタ