【創作】買い物 2/2

 

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武藤:  ほら見て、あの人。また大量に買ってる。

長谷川: はあ、だめなんですか?

武藤:  だめじゃないわ、普通の客ならね。あの人たぶん、転売している

長谷川: 転売って?

武藤:  あら、長谷川さん知らない?人気の商品を大量に仕入れて、欲しい人に高く売りつけるのよ。最近ニュースで話題の。

長谷川: ああ、見ます。あれですね。

武藤:  そうあれよ。いい歳して恥ずかしくないのかしら。私たちと同じくらいか、もっと上よ。

長谷川: まあ、60手前くらいですかね、でも、食べ物を転売ですか?普通に食べるのでは?

武藤:  だとしても買いすぎでしょ。毎回カートの上下に乗せた買い物に溢れんばかりの野菜よ。それにね、なんでもいいわけじゃないみたい。好みの野菜があって、ちゃんと入荷を把握してるのよ。

長谷川: まあ、うちは農家さんの直売店ですから生産者さんの名前が明記してありますし。って、なんであの人が特定の生産者の野菜を買ってるって知ってるんですか?

武藤:  それはレジ打ちのときに見てるからよ。ううん、証拠を掴むために動向を探っているの。

長谷川: はあ。でもやっぱり転売は考えにくくないですか?今や全国どこでもおいしいものが直送されるわけですし。

武藤:  もしかして外国!?仕入れルートの足がつかないように主婦から買い付けているのよ。店長は騙されてる。お得意先さんなんていって。大量に買うことを疑問に思わないのかしらね。本当に目先のことだけというか、何もわかってないわ、あの人。買ってもらえば何でもいいのよ、本当にダメね。

長谷川: でも、大家族なのかもしれないですし。

武藤:  それはない。この前、秋山主任とあの人が話しているところを聞いたの。息子さん同士が同級生らしくて。話によると、三人子供さんがいらして、今は全員独立して、家には夫婦二人暮らしだそうよ。

長谷川: そんなことまで、盗み聞き…げふん、聞こえたんですか?

武藤:  私ね、長期的な犯行ではないかと睨んでいるのよ。あの気難しい秋山主任が親し気に。いくら息子同士が同級生とは言え、心を許しすぎてる気がするの。きっと秋山主任の警戒心の高さを見越して、うまく懐に潜り込み、大量買いを怪しまれないようにしているんだわ。

長谷川: え、息子同士が同級生で仲がいいなら、そういう関係になるんじゃないないですか?うちも娘の部活が一緒のお母さんとは仲良くなりますよ。

武藤:  そこよ!秋山主任の立場を知ったうえで近づいたのよ。息子が仲良くなって初めて秋山主任の立場を知ったのか、知って近づいたのかまでは分からないけど、転売という言葉が流行る前から時間をかけて調査の目をかいくぐってきた、その線が濃厚ね。

長谷川: 濃厚って。想像力豊かすぎませんか?

武藤:  あの秋山主任でさえ、油断してる。こうなったら私たちがしっかりしなくちゃね。

長谷川: しっかりって?

武藤:  しっぽを掴むのよ。外国に転売している証拠をつかんで、反省してもらわなきゃ。いずれは私たちも罪に問われる可能性もあるのよ

長谷川: どうしてですか?

武藤:  そんな人に売って、気づかなかったのか?現場は何をしていたんだ?店の信用がガタ落ちだってね

長谷川: どうやって証拠を見つけるんですか?

武藤:  大丈夫、私よく、警察や弁護士のドラマ見ているから、きっとしっぽを出すわ。辛抱が肝心なの。それにいろんなスーパーで買っている目撃情報もあるの。警察の目を欺くために、買い付け先を分散しているんだわ

長谷川: 売り出し日が違うから、誰でもいろんなスーパーで買い物するのでは?

武藤:  それでね、この前、とっておきの情報を掴んだのよ。A店でね、クレームを入れて、店長を恫喝して、枝豆を箱でせしめたのよ。箱でよ、信じられる?

長谷川: なんですか、その話。

武藤:  本当よ。私のお友達がそのスーパーに勤めていて、クレームの対応をしたんだから、間違いないわ。そのスーパーでもしょっちゅう大量買いしていて、お友達ともよくその話をしていたの。それでちょうどお友達が対応することになって、まさかジャガイモにクレームをつけると思わなかったみたいで、動揺していたら、店長が来て、店長がおわびにって、枝豆の箱を渡したんだって。すごい手腕じゃない?

長谷川: どこが恫喝?

武藤:  いやね、長谷川さん、一見笑顔のほうが人は怖いものよ。感情が読めない恐怖で献上品を差し出してしまったんだわ。ほらみて!長谷川さん!今度はとうもろこしを大量に買ってる!しかも手に取ってニヤニヤしてる!きっと転売の売上を皮算用をしているに違いないわ!

長谷川: 確かに口角が上がっているようには見えますけど、皮算用だなんて。っていうか、いつも監視してるんですか?店長に怒られません?

武藤:  もちろん、仕事はちゃんとしてるわ。なんだかあの人が来ると気配でわかるのよ。なんてというのかしら、気配でデカいの。振り向くと、案の定買い物してるのよ。

長谷川: そもそも論ですが、ご自身で食べてる可能性はないですか?私も別のスーパーで買い物したときに、あのお客様がお肉を大量買いしているのを見ましたけど、知り合いの方と話してらして、「ここのお肉美味しいですよね」って言ってましたよ。全部食べるとは考えにくいですけど、やっぱり食べてるんですよ。ふくよかでいらっしゃいますし。

武藤:  あら、長谷川さんもしっかり調査してるのね。頼もしいわ。そこなのよ。追及しても自分で食べてますよ、言い逃れができるように太っているんだわ。

長谷川: 武藤さんって本当にすごいですね

武藤:  あとちょっとのところまで来ている気がするの。ああ、決定的な証拠が欲しいわ。そうだ!お会計のときそれとなく聞いてみる。自白があれば、言い逃れはできないもの。そうと決まれば行くわね!

長谷川: え!ちょっと!行っちゃった…これは秋山主任に相談だな、いろんな意味で。

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武藤: 今日も大量に買われるんですね。まるでどこかに売ってるみたい

明子: え、ああ、支払いはしてもらっていますね、みんな喜んでますよ

武藤: !!!

 

明子:(食材代はもらっているし)

武藤:(あっけなく白状した!御用だ!!)